第十三場 ジプシー村 D
暗転の中。フラメンコ・ギターの音楽が流れてくる。
中央に、赤系の照明が付くと、ファニータが居る。ファニータの、ソロ・ダンス。
曲奏が少し変わる。メリッサの歌声が聞こえてくる。
照明少しずつ入って来ると。回りに居た、ジプシー達が一人、二人とダンスに加わる。
エルビラ、ファノも居る。
メリッサ 『夜が来る 影が辺りを覆う
火を 燃やせ
影を 消せ
夜の闇は
災いと 共にある
皆 火の側に来い
災いは 此処迄やってこれない
力を 集めるのだ
私達には 私達の力がある
他の者の 言葉より
自分達の 言葉を
信じよ
災いの元は 焼き尽くせ
火は 総てを 清めてくれる
風を呼べ 行く先を 示してくれる
時を待て 時は すぐ側まで来ている』
朗々と、流れるような曲奏で。全員のダンス決まって。
音楽、明るい感じのものに変わる。カップルを組む者。一人で踊り出す者、様々。
曲の間にエリオ達が登場して。ダンスに加わる。マリオ達三人は楽しんでいるが。
エリオは、ジプシーの中にエルビラを探す。音楽が最高に盛り上がった時に。エルビラを見つけて。
エリオ 「エルビラ!!」
音楽もダンスも、総て止まる。
エルビラ 「エリオ。貴方、何故こんな所へ。」
エリオ 「貴女を探して……。何故、侯爵邸から姿を消したのです。貴女は、御自分に疑いが掛かって
いることだって分かってらしたのに。姿を消せば余計に疑われるだけなんですよ。」
ファノ 「知ってるよ。」
エリオ 「僕は彼女に聞いている。」
ファノ 「だから、知ってるって言ったんだよ。」
エリオ 「……。」
ファノ 「じゃあ聞くが、坊やは分からないのかい。」
エルビラ 「無理よ。私を追ってこんな所まで来る人だ者。」
エリオ 「エルビラ……。」
エルビラ 「貴族は、貴族。しょせんお坊ちゃん育ちなのよ、女の心なんて、分かるはず無いわ。」
ジプシー女「その子かい、エルビラにお熱の、貴族のお坊ちゃんて。」
ジプシー男「あんたもえらい女に惚れたね。怪我するよ。」
ファノ 「いや、この手の坊やの方が、怖いんだよ。」
ジプシー女「そりゃそうだ。一途だものね。」
ジプシー女「可愛いじゃないか。うちの亭主なんて、女の尻ばっかり追っかけてるよ。」
ジプシー男「おまえだって……。」
ジプシー女「あたしがどうしたって……。」
エリオ 「うるさい。うるさい。うるさい。ヤメロー!!」
エリオはジプシー達が、自分を話しての種にして。笑い者にされていることに、耐えられなくなってきた。
ジプシー達一瞬話を止めるが、少し間があって、一斉に笑い出す。
エリオ 「何がおかしい、何故笑う。」
ファノ 「坊やが癇癪起こしてるぜ。(笑い)」
ジプシー達一斉に笑う。
エリオ 「エルビラ。こんな所に居てはいけない。私と一緒に戻りましょう。」
ファノ 「まだ分かっていないや。」
エリオ 「黙っていろ。」
ファノ 「貴族だからって威張るんじゃないよ。」
エリオ 「なんだと。」
ファノ 「やるかい?坊やにそんな度胸があるのかい。」
二人暫く睨み合う。マリオ達が、止めに入る。
マリオ 「落ち着け、あいつらは、おまえをからかって楽しんでいるだけだ。」
クレオ 「おまえが感情的になるほど奴等は、おもしろがる。」
ルシオ 「侯爵夫人のことは諦めろ。」
エリオ 「諦めろ。何故。あの女はこんな所にいる人ではない。」
エルビラ 「あたし、帰る気なんて無いわよ。それに言っておくけど。此処はあたしが育った所よ。
あんまり馬鹿にしないで。」
ファノ 「そうそう、エルビラの言う通りだ。それにこいつは帰らないよ。分かっただろう。」
エリオ 「私は。私はどうしたら良いと言うのです。」
エルビラ 「帰れば良いの。お友達と一緒に、貴方がいるべき所に。セルバンティス伯爵、
分かったでしょう。」
メリッサはエリオが現れてから黙って彼を、見つめていたが。
エルビラがセルバンティス伯爵と呼んだことで、動揺がある。
エリオ 「エルビラ。いや、やはり貴女を連れて戻る。」
ファノ 「まだ分かってないのか。エルビラは戻ら無いと言っているのだぞ。」
エリオ 「彼女と一緒だ。でなければ……。」
ファノ 「いい加減にしろ。」
ファノ。最初はエリオを、からかっていただけだが、次第に本気で腹を立ててきた。
ファノ 「痛い目にでも遭わなけりゃ。帰りそうに無いな。」
ファノ。ナイフを、取り出す。
マリオ 「まずいよ。帰るんだ、エリオ。」
エリオ 「帰れ。おまえ達は帰れ。僕は彼女を。……。」
ファノ 「しつこいんだよ。」
ファノ。余裕でエリオを威嚇し出す。
エリオも、それを受けながら。ファノと渡り合おうとする。
二人の、決闘シーン。音楽が入る。
ファノのナイフを、エリオは、かろうじて交わしている。
ジプシー達は、止めようとする者。野次を飛ばす者と、様々。
エルビラは、黙っている。メリッサは、呆然と二人を見ている。
エリオ、次第に追い詰められる。ファノのナイフが。エリオの胸に。
メリッサが、一瞬早く飛び出して来る。
メリッサ 「止めて。止めとくれ!!。」
メリッサ。エリオを庇う。ナイフは、メリッサの背中からに胸に。
ファニータ 「キャー!!メリッサ!!」
全員がその場で、一瞬ストップモーション。凍り付いたような。緊張感の中。エルビラの。叫び声。
エルビラ 「メリッサ!!」
フアノ。手にしていたナイフを落とす。
フアノ 「何故?何故だ?……。」
メリッサ。エリオの腕に抱き留められて居る。
メリッサ 「セルバンティス伯爵様。」
エリオの顔を、確かめるように見上げて。
メリッサ 「ごめん。ごめんよ。……。」
エリオに何か告げたげな。それでいて満足したような微笑みを残して息絶える。
エルビラ 「メリッサ!!メリッサ!!。」
エルビラ。メリッサに、すがりついて泣きじゃくる。
ファニータを始め、全員、なす術もない。同じ様に泣き出す者もいる。
エリオは、今何が起きたのか理解出来ないと言いたげな表情。
ファノは放心したように、舞台前面に歩き出す。
BGM・カーテン閉まる。
第十四場 ジプシー村 E カーテン前
ファノの自問自答。
ファノ 「何故。何故庇った。あいつとは何のかかわりも、ないだろうに。あの時飛び出せば、
自分の命が無い事など、分かり切っていたはずだ、なのに何故…。」
メリッサの最後の言葉が蘇って来る。声のみ。
メリッサ 「セルバンティス伯爵様。ごめん。ごめんよ。……。」
ファノ 「セルバンティス伯爵様。……?そうか。もしかしたら。」
ファノ自分の腰に付けていた、ネックレスを外して。
ファノ 「やっと、探していたものが、見付かるかもしれない。」
ネックレスを、しっかりと握り締めて。下手退場。
BGM・暗転。カーテン開く。
第十五場 セルバンティス伯爵邸 D カーテン前
セルバンティス伯爵夫人の肖像画の前。音楽。ソニアのソロを曲のみ流す。
肖像画の前に、ソニアが跪いている。肖像画に話しかける。
ソニア 「叔母様。私はどうしたら良いのでしょうか。エリオを愛しています。彼を待ち続けたいのです。
でもテオドールの言葉が気になるのです。私は不実な女なのでしょうか。
叔母様、エリオは一体誰なのですか。私は、私は分からなくなってしまいました。
叔母様、教えてください。私はどうしたら良いのでしょうか。」
ファノ 「教えてやろうか。」
ファノの声が下手袖から聞こえる。
ソニア 「誰!?誰なのです。姿を見せなさい。」
ファノ 「貴族のお嬢さんにしては気の強いことだ。」
ファノ。下手より登場。ネックレスを手にしたままである。
ソニア 「貴方は?」
ファノ 「この絵の女は誰だい。」
ソニア 「セルバンティス伯爵夫人です。」
ファノ 「死んだのかい。」
ソニア 「えっ、ええ、何年も前に。」
ファノ 「そうか死んでたか。」
ソニア 「貴方は誰です。叔母様となんの関係が……。」
ファノ。ネックレスを見せる。
ソニア 「それは……。」
セルバンティス伯爵夫人の肖像画に、ファノの持っているネックレスと同じ物が描かれていた。
ソニア 「そんな……。誰か、だれか。」
ソニア、信じられないと言う感じで、取り乱して人を呼ぶ。テオドールが上手より登場。
テオドール「ソニアどうした。(ファノに、気付いて)おまえは誰だ。」
ソニア 「テオドール。あの人の持っている、ネックレス……。」
テオドール「何だって。あれは、母上の肖像画と同じ物。何故。」
ファノ 「……。」
テオドール「それを何処で手に入れた。」
ファノ 「盗んだとでも、思っているんだろ。」
テオドール「……。」
ファノ 「おまえ達は俺達を見たらどうせ直ぐに盗んだと決め付けやがる。だがこれは俺が誰であるか、
何者であるのか証しを立てる、たった一つの品なんだ。俺を育てた人に、俺を生んだ人が渡した
品物なんだ。」
ソニア 「そんな、それじゃあ。」
ファノ 「この絵の女が俺の生みの親らしい。」
テオドール「おまえが、兄だと言うのか。」
ファノ 「そうか、もう一人子供がいたのか。それも男それならいいだろう、俺の思うとうりにさせて
もらう。」
テオドール「どういう事だ、金が目的ではないのか。」
ファノ 「金も地位も俺には必要でわない。俺は、俺自身を見つけたかっただけさ。
そして、あいつとけりをつける。」
ソニア 「あいつ。一体誰のことなの。」
ファノ 「……。」
テオドール「エリオ。……。」
ファノ 「ご名答。」
ソニア 「そんなどうして。」
ファノ 「あいつのせいで、俺は俺を、育ててくれた人を殺した。そして、俺の女を連れて行った。」
テオドール「メレンデス侯爵夫人……。」
ファノ 「エルビラ。」
ソニア 「どうする、つもりなの。」
ファノ 「けりをつける。と言っただろう。」
テオドール「殺す。と、でも。」
ファノ 「お嬢さんの前で言わせるな。」
ソニア 「………。」
ファノ 「戻ってないのか。」
テオドール「侯爵夫人の所だろう。」
ファノ 「ありがとう。行ってみる。」
テオドール「戻って来る気は、無いのだな。」
ファノ 「壁の中ではもう暮らせないのさ。俺はジプシーだ。」
ファノ、笑って言い捨てて。下手退場。
テオドール 「勝った。僕はエリオに勝った。(高笑い。)。」
ソニアは、ただ泣く。BGM・暗転。カーテン閉まる。
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